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私のてつがく

私のてつがく

盛岡市で活躍する気鋭の農家の方々の思いや考え方を「私のてつがく」として紹介します。

2022年11月24日

VOL6 「銀河のしずく」生産者 大志田光公(みつひろ)さん

 

 第6回は岩手県のブランド米「銀河のしずく」を主に生産する農家の6代目・大志田光公さん(61)を紹介します。

 盛岡市の永井地区など、市街地に近いエリアで水稲8.4ヘクタールとハウスでナス3アールを栽培しています。現在、水稲のうち「銀河のしずく」が5.6ヘクタール、「ひとめぼれ」が2.8ヘクタール。少しずつ「銀河のしずく」の割合を増やしています。

◆45歳で継いだ米農家、“都市近郊”ならではの苦労

 家が代々農家で、私で6代目です。でも、若い頃は農家を継ごうとは全く思っていなくて、自動車整備士や電気関係の工場勤め、病院関係の仕事を長くしていました。農家を継ぐ決心をしたのは45歳のとき。父が高齢になって思うように動けなくなってきたのを見て「手伝わなければ」と思うようになったのが就農のきっかけです。

 子どもの頃、都南のキャラホールのあたりは田んぼしかなったのですが、どんどん開発が進みました。住宅地に近いところに田畑があるので、アスファルトを土で汚さないようにとか、ほこりや騒音でなるべく周りに迷惑をかけないようにするなど、都市近郊型農業ならではの苦労もありますが、なんとか妻と2人でやっています。

◆いち早く「銀河のしずく」栽培に着手

 先祖代々続いている農家とはいえ、私の場合は父から教わるというより、最初から「自分で勉強しろ」と言われていました。農協の研修会などになるべく足を運び、作業を覚えました。

 「銀河のしずく」は、試験栽培が始まった翌年の2016年から、県内でもいち早く栽培に取り組みました。農協から「苗が余っているから植えてみないか」と言われたことをきっかけに、20アールだけ植えたのがスタートでした。「ひとめぼれ」に比べて登熟(種子が発育、肥大すること)が早い品種なので、本来は刈り取りまでの期間も短くしないといけないのですが、当時はそういう情報も知らないまま栽培していました。翌年から勉強しながら少しずつ植える面積を増やし、今では「銀河のしずく」がメインになっています。

◆「食味値」向上へ研究の日々

 就農当初からお米の「食味値」に興味がありました。食味値とは、タンパク質、アミロース、水分、脂肪の酸化度を測って、お米のおいしさを総合的に評価した数値です。

 最初はひとめぼれと同じように育てていたのですが、食味値が思いのほか低くて、どうしたら上がるのだろうかと手探りでいろいろなことを試しました。

 栽培を始めた頃の話ですが、「鉄コーティング湛水直播(たんすいちょくは)栽培」という鉄粉をコーティングした種子を田んぼに直接まく方法で栽培すると、食味値が高くなるという話を聞きました。そこで、鉄分が関係しているのではないかと思って土作りの時に鉄分を加えてみたり、直播栽培と同じ条件に近づけるために苗を浅く植えたりするなど、本や資料で読んだことに自分なりの推測を加えて、試行錯誤を繰り返しました。そんなふうに研究することが好きでしたね。

◆試行錯誤を重ね、「頂上コンテスト」準優勝

 2017年に「銀河のしずく」の栽培技術向上を目的にした「第1回銀河のしずく頂上コンテスト」に出て、2位に入ることができました。まさか自分が入賞するとは思っていなかったので驚きました。自分なりに研究していたことが報われたのかなと思います。

 翌年の第2回コンテストでは、同じ永井地区の人が優勝し、その方もとても研究熱心でした。私たちの永井地区には「あさあけ会」という農業者らで作るグループがあって、40年も前から熱心に農業研究をしています。毎年、秋田県の種苗交換会に勉強に行くなど、研究を深めていく地域性や、古くから農業が続いているこの地域の“土の力”がお米の味に関係しているように思います。

 

◆収量の確保と味のバランスを追求

 一般的にお米の食味値を高くする(おいしくする)ためには、タンパク質の量を少なくすればよいと言われていて、そのために肥料に含まれる窒素の量を減らします。でも、減らし過ぎると収量が減ってしまう。経営を成り立たせるためには、ある程度の収量も確保しなければいけませんが、その塩梅が難しいです。

 去年はうまくいったからからといっても今年も同じようにいくとは限りません。同じ肥料で育てても、天候に左右されるので食味値や収量が変わってきます。今年は登熟期に長雨が続いて寒かったので、倒伏(稲が倒れること)が見られました「銀河のしずく」は倒伏しづらい品種と言われているのですが、地力(土地の栄養分)が高いところは倒伏してしまいました。栄養が良すぎると背丈が高くなり、茎も軟弱になって倒れてしまうことがあるのです。本当に難しくて、いまだに試行錯誤の日々です。

「農事組合法人となん」のパッケージ(写真左)、「純情米いわて」のパッケージ(同右)

◆後継者不足を補う農業の形を模索

 私は現在、農事組合法人となんの理事で、農協では水稲部会の盛岡支部副支部長も務めています。これからの都南地域の農業を考えたときに、自分の理想としては、農事組合法人となんが中心となって、法人が作業を受け、人を雇い、作業するようなことができればよいのではないかと思っています。もちろんこの地域には大規模な農家もあるので、法人とのすみ分けも必要になると思います。

 私のところも含めて多くの農家が後継者不足という課題を抱えています。法人が窓口になれば、家が農家じゃなくても農業ができる。いわゆる「農業の会社員」のような働き方ができて、農業に興味がある人の雇用の場になると思います。いろいろな考え方があるので、まだまだ先の話にはなるかもしれませんが、農業に興味がある人がチャレンジできる体制を整えることができれば、都南地域の農業がうまくやっていけるのではないかと思っています。

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