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私のてつがく

私のてつがく

盛岡市で活躍する気鋭の農家の方々の思いや考え方を「私のてつがく」として紹介します。

2022年7月12日

VOL5 北田りんご園 北田亮(りょう)さん

 

 第5回は、盛岡市黒川の北田りんご園の後継者、北田亮さんの「私のてつがく」を紹介します。

 西向きの斜面にリンゴ園が広がる黒川地区で、リンゴ4.5ヘクタールとブルーベリー15アールを栽培しています。ブルーベリーの収穫は7月だけで約800㎏。8月から、リンゴの早生品種の収穫作業が始まるので、ブルーベリーは7月中に収穫ができる品種に絞って作っています。主力は「スパータン」と「ブルーレイ」の2品種で、全9品種を栽培しています。

◆「適地」が生む、特大ブルーベリー

 畑は、栽培場所に恵まれ、木の背丈が2メートル以上と高めです。窪地で斜面から水が流れてくるおかげで、生育がよいだけでなく、実も水分量が多く、大玉になる傾向にあります。実が直径2㎝以上の特大サイズ「3L」になるのは、盛岡エリアでは珍しく、ギフト向けにも利用されています。

 軸元までしっかりと黒くなっているものが完熟の印です。手作業で一つずつ収穫したものを、手の平で確認し、軸元が少しでも赤いものは加工品に回すなど、商品、加工、廃棄の3段階に仕分けしています。

 ブルーベリーは花が咲いてから2カ月ほどで収穫します。期間が短いため、天候に左右されやすいところが、難しいところです。今年は必要な量の雨も降っていて、例年通り順調に育っているのですが、曇天続きで色付きが進んでいない印象です。その中でもしっかりと完熟を見分けるよう意識して収穫しています。

◆家族経営だからこその丁寧な選果

 うちは家族経営です。父と母、妻、そして期間雇用で3人ほど雇っています。家族経営の良さは、自分たちで商品の基準を定められることです。収穫した実を一つ一つ、丁寧に自分の目で選び、確かな品質でお客さんに届けることができます。

 朝5時から箱詰め。箱詰めが終わったら、収穫。収穫がない日は、リンゴの摘果を行い、夕方から実のサイズ分けをする、というサイクルです。決まった休みは特にありませんが、子どもがいるので、子どもに合わせて土日に休むことがほとんどです。この時期は土日も忙しいですが、子どもも畑で遊んでいます。家の前に植えているブルーベリーが完熟する頃には、子どもが親の目を盗んで、勝手に〝収穫〟していることもあります(笑)

◆楽しそうに農業を営む両親に憧れて

 元々は祖父がリンゴを作っていましたが、祖父が亡くなったことをきっかけに、父が脱サラして跡を継ぎました。父がほとんど一から取り組み、当初は2ヘクタールだった畑も、今は倍になり、ここまで大きくしてくれました。ブルーベリーも父が始めました。
私は幼い頃から父と母の苦労を見てきた一方で、楽しそうに家族で農業を営む姿を見て、生業として成立するのだということを肌で感じ、憧れてきたように思います。

 盛岡農業高校に進み、親元を離れて寮生活を送りました。卒業後は東京農業大学に進学し、農学部で果樹を専攻していました。元々跡を継ぐつもりで進んだわけではなく、農業を深く学ぶにつれて「農業、面白いかも」と思うようになり、岩手に帰ることを決めました。農業の面白さを感じ、職業として志したのは、早くに親元を離れたことが大きかったのかもしれません。

 継ぐことを決めたとき、両親からは歓迎されませんでした。
 子どもには自分と同じ苦労をさせたくなかったのでしょうね。でも「やらせてみてよ」と帰ってきました。大学卒業後は1年間別のリンゴ農家で研修し、2年目からは父とともに働きました。父親から学ぶことを嫌がる人も多いですが、はじめから仕事と生活を混同しないように「仕事の同僚」と思うようにしました。先輩なら怒られても納得できます。しかし最近は家でも仕事の話をしていますね。それだけ仕事の比重が大きくなってきたのかもしれません。
 農園のWEBサイトは、父と働くようになってから独学で作りました。当時はWEBサイトを持っている農園が少なく、家族にも喜ばれました。お客さんに生産者の顔が見えること、畑がどんな状況か見えることを意識し、SNSでの発信にも力を入れています。注文の新しい受け口にもなってきています。

◆農業の難しさと収穫の喜び

 リンゴもブルーベリーも寒冷地での栽培に適しており、盛岡は適地だと思います。
 リンゴは「ふじ」「はるか」など24品種、3000本を栽培しています。今年はリンゴの生育がとても良いので、収穫が楽しみです。

 リンゴは剪定から始まり、収穫できるまでの期間が長い果物です。
 就農した頃は、剪定の仕方でどのように実がなるのか、収穫までの1年間をまったくイメージすることができませんでした。
 今になってやっと収穫するときの状態を想像できるようになり、次にやるべきことも見えてきました。とはいえ、自然が相手ですので、生育は想像した通りにならないし、天候の予測もなかなかできません。「今年は実がいっぱいなっているから、多めに落としておいていいか」と思いきや、台風で予想以上に落ちてしまう年もありました。
 それはリンゴだけに限ったことでなく、農業全体の難しさでもあり、うまくできたときは喜びに変わります。

◆人と人のつながりも農業の面白さ

 大学生のときに思った〝面白さ〟は、自分が作ったものをお客さんに提供できること、そして家族で仕事をしながら生活できることです。実際に働いてみると、それだけでなく、農業を通して出会う、人と人とのつながりも〝面白さ〟の一つだと感じます。特に地域の生産者や青年部のみんなと仕事の話や将来の展望を話すことも刺激になっています。

 新規就農はよく話題に上がります。はじめは積極的に薦めていましたが、今は新規就農を目指す人たちには、農業を一つの事業として見て参入してほしいと思います。新規に事業を立ち上げるのはかなりの労力がいりますよね。ゼロからのスタートは本当に大変です。一方で、もちろんやりがいもある。農業を始める人の負担を減らす方法を、地域を巻き込んで考えていかなければなりません。

◆経営継承のロールモデルに

 大学を卒業してこの10年で、父から一通りの作業を教えてもらいました。その父も今、60歳になり、65歳で経営継承しようという話になっています。父の経営を学んだ上で、自分の経営の方向性を定めなければなりません。大規模経営に進むのか、それとも、経営の規模は変えずにより高い付加価値を付け、洗練されたものを作っていくのか。今はどちらにも進める状態です。選択肢を与えてくれた父に感謝し、あと5年で決めていこうと思います。

 自分のように、もともと基盤がある後継者にも不安は尽きません。経営継承は後継者のネックになる部分です。生産から販売までを担う農業形態で、後継者が突然継ぐのは負担が大きい。販売の部分だけでも、地域全体で団体を作って販売する形を作るなど、後継者の不安を取り除く環境を作りたいという話は若い人たちの間でしています。不安を減らしてあげることが、若者が帰ってきてくれる条件にもなるのではないかと思います。また、お客さんのためにも、作る人が変わっても、安定して同じ品質のものを提供できるように技術の継承も大事だと考えます。まだ経営者ではないので、これからの課題ですね。

◆お客さんの笑顔のために、おいしさにこだわりたい

 果物は生活必需品ではない嗜好品だからこそ、おいしさにこだわりたい。
 食べた人に笑顔になってもらいたい、その一心で作っています。
 わざわざ選んで買ってくれた人たちのために、食卓に幸せを届けられるよう、これからも手間暇をかけて、おいしい果物を作り続けたいと思います。

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