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私のてつがく

私のてつがく

盛岡市で活躍する気鋭の農家の方々の思いや考え方を「私のてつがく」として紹介します。

2023年11月9日

VOL9 サンファーム 吉田 聡(よしだ さとし)さん

第9回は盛岡市と紫波町の農園で100種を超えるリンゴを栽培する有限会社サンファーム代表取締役の吉田聡さん(56)を紹介します。

◆「日本でここにしかない」農園に


 盛岡赤十字病院の裏にある「盛岡さくらんぼ農園」と 紫波町の「チェリー&ベリーガーデン」で、サクランボやブルーベリー、ラズベリー、リンゴ、ハスカップ、桃などさまざまな果物を栽培しています。果樹園の広さは計約8.6ヘクタール で、生産、加工、販売まで一貫して行っています。6月下旬から約1カ月間は観光農園として、さくらんぼ狩りやブルーベリー狩りが体験できます。

 私は新潟県上越市出身で、両親は教員でした。山形大学の農学部に進学し、教育実習にも行きましたが、親の大変そうな姿も見ていたし(笑)教員にはならず東京の商社に就職しました。商社時代には研究職として魚や貝類の育種、疾病対策を担当しました。その後、貿易自由化と日本商社のノルウェーやチリでのギンザケ養殖事業の投資を機に、国産養殖ギンザケの需要が縮小傾向に向かったため、転職を考え始めました。

 そんな中、大学の同級生だった妻の実家である盛岡の農家を継ぐことになりました。都南地区でおよそ300年続く農家で自分は11代目になります。妻の父はもともとサクランボ、りんごを育てていましたが、自分が就農した当時は稲作を経営の中心に据え米や野菜などの加工も行っていました。その後米価の下落や減反政策もあり、経営の軸足を果物の栽培に移しました。同級生にサクランボの生産農家や山形の農業改良普及員が多くいたので、サクランボに特化して日本で普通にやってないことをやろうと考えました。同じ地域の人と競合してもしょうがないですし、やはり自分の強みを生かすしかないという思いで、リンゴもサクランボも「日本でここにしかない」というコンセプトに行き着きました。

◆パティシエが求めているリンゴ

 サンファームでは、「クッキングアップル」と呼ばれる調理用リンゴなど海外の品種を含む約100種のリンゴを育てています。日本は生で食べておいしいリンゴが主流ですが、ヨーロッパなど海外ではリンゴは野菜感覚。昼食にはサンドイッチと小さな青りんごを組み合わせたり、肉料理でも酸味のあるりんごを加熱して調理したりします。シードルも渋みや酸味、苦みなど特徴のある品種を原料とし複雑な味を出し、さまざまな料理に合わせます。

 岩手では、JAに出荷できるリンゴは20~22種ほどの奨励品種に限られています。当社では、様々な品種のリンゴをホテルやパティスリーに向けて直接販売しています。赤い果肉の「紅の夢」やスイーツにぴったりな紅玉、イギリス原産、フランス原産の品種まで個性豊かな多品種のリンゴを減農薬・化学肥料は使用せず栽培しています。

 こうやって特徴的な品種をいろいろ作るようになったのは、やはり人との出会いが大きいですね。はじめにリンゴを栽培しようと思った時に、長野の先輩農業者の方で変わったリンゴを作っている方がいて、そういう方と出会えたこともきっかけの一つです。あとはSNSの影響がすごく大きくて、「パティシエに特化したものを作りたいと思っています」みたいなことを発信し始めたら、東京の洋菓子店の方がパティシエやシェフを紹介してくれて、人との出会いでどんどん人脈が広がっていきました。自分でなりたいと思った姿を発信し続けると、こういうふうに広がっていくのかと実感しました。それから、直接、自分の利益にならない事でも顧客の課題解決のお手伝いになるのであれば、地域の生産者の紹介、委託加工などは率先してやろうと考えています。

 バティシエは酸味のある品種を求めています。またリンゴは水分が多いため、お菓子にする際は調理時間が長くなってしまいます。その時間をいくらかでも短くするために、水分の出にくいフランス原産の品種「カルヴィルブラン」を取り入れました。パティシエの皆さんの働き方も考え、皮をむいてカットしたり、コンポートにしたり、ドライフルーツにしたりと提供方法も工夫しています。糖度や甘みについても使用する砂糖の種類を個別に相談しながら、課題解決のお手伝いをしています。

◆コロナ禍で増えた個人客

 コロナ禍はすごく難しい時期でした。ホテル用にオリジナルのボトルでジュースを作っていましたが、ホテルの需要が激減して、すごい量の在庫を抱えたこともありました。一方でネット販売を通じて農園のファンの方が増えました。それまで「B to B(企業間ビジネス)」をメインでやっていましたが、「B to C(消費者向けビジネス)」の個人のお客さんにいかに売るかということも考えるようになりました。

 サンファームのリンゴをたくさんの人に知ってもらうためのクラウドファンディングも、そうした消費者のニーズをつかむための取り組みの一つです(11月14日プロジェクト終了予定)。応援してくれる方には返礼品として珍しい品種のクッキングアップルの詰め合わせや、盛岡の四つの洋菓子店がサンファームのフルーツで作った焼き菓子セットなどを用意しました。いろいろなリンゴを詰め合わせるとなると、選果に時間がかかるので盛岡市の補助金を活用し選果機も導入しました。

◆こだわりのさくらんぼ農園

 さくらんぼ農園は土作りにもこだわり、山田町のカキの殻や紫波町の養豚場の堆肥、県内ブロイラーの鶏ふんなど肥料の原料は、全部岩手のものを使用しています。枝を誘引する「垣根仕立て」で、車椅子のお客さんもお子さんもみんなが楽しめるように垣根と垣根の間が広くバリアフリーになっています。日本でこれだけの規模でこの仕立て方でやっているところはほとんどありません。ここでしかできない摘み取り体験が強みです。

 今年と一昨年は、霜被害でサクランボ狩りを中止せざるを得ませんでした。ここ20数年で超不作は3回あり、そのうち2回がこの3年以内に起きています。収量は3年間で5割減りました。サクランボは果樹の中では開花時期が早く、花芽が早くから動き出すために春先の温度変化の影響や霜の被害を受けやすいです。4月下旬に氷点下になり、ビニールをかぶせて防寒対策していても被害が出ました。今年は来シーズンに向けて霜よけのファンを設置する予定です。

 

◆未来へ、挑戦し続ける

 コロナ前は農園の年間来園者約4千人のうち1割ほどが海外のお客さまでした。海外の観光客がリンゴやサクランボを買って持って帰ることはできませんが、自分たちで輸出することはできます。日本の蜜入りリンゴを知ってほしいという思いで、タイや台湾に積極的に販売に行ったり、ドイツの展示会に共同出展してリンゴを試食してもらったりもしました。日本の品種を海外へ、海外の品種を日本の消費者へ。それぞれの良さを知ってほしいと思っています。

 これからの農業は地球温暖化にどう順応していくのかが課題になってくると思います。農業の担い手が減り、農家の企業化が進んでも、資材や人件費は上がり続け、生産コストを生産物に転嫁しなくては事業を存続できません。青果物の価格が上がる背景を消費者に理解してもらいながら、日本の食産業を守っていかなければなりません。

 今年は例年と比べ9~10月に気温が高い日が続き、早生の赤肉品種に色が入らず酸味もなくなっています。春先の低温と経験のない気温の推移がこれから収穫するリンゴにどう影響するかも心配です。日中と夜の温度差がないとリンゴは赤く色づかないし、赤くなるのを待つと軟化してしまいます。着色しやすいリンゴや葉摘み作業のいらない黄色や青リンゴの品種を増やし、サクランボとうまくリレーできるような桃やベリーなどの品種と組み合わせて、5年後10年後の温暖化を見据えたチャレンジを続けていきたいと思っています。

 海外から新しい品種を導入する際、岩手の土地に合うか合わないか全然分からない状況でも試行錯誤しながら手探りでやってきました。他の人がやらないことにチャレンジすることはたぶん誰でもできます。でも「挑戦し続けること」は難しい。そうやって続けられることが自分の強みであり、チャレンジし続けることでブランディングされていくのかなと思います。

 

 

 

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