第10回は、集落営農に取り組む農事組合法人となんを紹介します。代表理事組合長の平野友則さん(75)と、地域未来部部長の南野正直さん(43)からお話を聞きました。
◆都南地域の農家を支える
農事組合法人となんは盛岡市の南部、旧都南村の地域で活動している営農組織です。
2007年に都南営農組合を立ち上げ、2013年に法人化し農事組合法人となんになりました。
設立について平野さんは「長年続いていた米の価格補償が農家の所得補償に切り替わったことが、設立のきっかけでした。補償を受けるには4ヘクタール以上の田んぼを耕作しなければならなくなり、対象者が激減。当時、約1300戸の米農家がいましたが、補償を受けられるのは20人もいませんでした。国の方針で、複数人がまとまり田んぼを20ヘクタール以上集めれば補償の対象となることが決まりました。そこで、都南管内でも集落営農をつくろうと、2007年に都南営農組合を立ち上げました。組織に加入したのは、約1300戸のうち約1000戸でした。任意組織では農地の借り入れができないため、2013年に法人化しました」と振り返ります。
最初は平野さんが農家の相談役、南野さんが事務担当の2人体制でスタートしました。現在は組合職員が約20人、季節雇用として約30人、合計約50人が働き、「農産物の生産・販売」「農地の管理・利用集積」などをしています。農地面積は約1000ヘクタールで、組合に加入している農家が管理できない農地は職員が直営で耕作しています。2023年の直営面積は40ヘクタールを超えました。
◆米粉麺の商品化で販路を拡大
同組合は米を中心に小麦、大豆、リンゴなども栽培しています。
米の作付面積は約940ヘクタールで、組合が管理する農地の9割以上を占めます。品種は主に、粘りや香りのバランスが良い「ひとめぼれ」と、軽やかな食感の「銀河のしずく」を作っています。
6次産業化にも取り組み、組合で栽培した米を粉にして作った麺「米粉麺」を販売しています。2010年に盛岡市の製麺会社「兼平製麺所」から原料となる米の供給依頼があり、2012年から製造を開始。米由来の白さともちもちした食感が特徴の「純米めん」と、ラーメンのような黄色で細い麺の「米こっこめん」の2シリーズを開発しました。
南野さんは米粉麺について「いずれも小麦不使用で、つなぎにでんぷんを使っていてコシのある食感が楽しめます。つゆにもこだわり、えごまつゆは特定原材料等28品目を含まず、アレルギーのある方にも安心です。他のつゆも特定原材料8品目不使用です。グルテンフリーを求めるお客さまを中心に人気があります」と笑顔を見せます。
今年1月から新たにお土産向けにかわいらしいパッケージで統一した「めんこいめん」シリーズも販売が始まりました。いずれもグルテンフリー、盛岡産米粉使用で「純米麺」「牛だしフォー」「盛岡ラーメン」「盛岡純米冷麺」「じゃじゃ麺」「ひっつみ」の6種を展開しています。
麺だけではなく、盛岡産米粉を100%使用したチョコケーキ「盛岡みのりブラウニー」も販売しています。商品を通じて盛岡を伝えるプロジェクト「モヤーネ」の参画商品です。
◆地域を担う人材を育てる
「農産物の生産・販売」「農地の管理・利用集積」のほか「就農支援」も組合の大事な活動の一つです。
農業を始めるには農地や資金、労働環境、農業機械などを用意しなければならず、一人で始めるには高いハードルがあります。そこで就農希望者を受け入れ、組合で働きながら農業技術や農業経営を学ぶ場を設けています。
就農希望者の一人、井上健一さん(49)は異業種から飛び込み、農事組合法人となんに勤務しながら農業を学びました。4年をかけて農業技術を習得し、地域との関係性を築き、今は都南地域で独立し、約30ヘクタールの農地で麦・大豆を栽培しています。
就農を目指して2021年に組合に入職した金野稔樹さん(23)は「独立就農という共通の目標を持っている仲間と働くことで、自分の成長につながっていると感じています」と意欲を見せます。
南野さんは「以前は組合で管理する農地が少なく、地元の農家に仕事させてほしいと声をかけることがほとんでしたが、担い手のいない農地を引き受けることが多くなり、組合が管理する割合が増えました。地域の一員として都南の資源を利活用できる人材を、これまで以上に求めています」と話します。
◆土に触れる貴重な機会
多くの人に農作業に触れてほしいとの思いから、組合が管理する水田で田植えや稲刈りの体験イベントを開催しています。この地域で取れた米を使った米粉麺の試食会も行ったところ評判となり、50人以上が参加した年もありました。
2023年度は「ホリデーファーム」という企画に参加し、年に3回の農業体験(田植え、稲刈り、脱穀)を通じて、盛岡の食と農の魅力を伝えました。
また、農業と福祉が連携する「農福連携」にも取り組み、障害者支援施設などが体験農園として利用しています。
平野さんは農業体験について「農業に関わることが減ってしまった今の時代で、土に触れることができるとても貴重な機会になっています。子どもたちは大喜びして『またやりたい』と笑顔を見せます。この活動を通して、農業に興味を持ってもらえることを願っています」と期待を込めます。
◆農業のバトンを次世代へ
高齢化や人口減少に伴い、農業人口の減少が心配されています。平野さんは「都南地域でも7、8割の農家が今の代で農業を辞めてしまう」と懸念します。
農地が耕されなくなると食料自給率が下がるだけではなく、景観が悪くなり、クマやイノシシなどの野生動物のすみかになる可能性もあります。
そのような時代だからこそ、農事組合法人の役割はより大きくなります。
平野さんは「多面的機能支払交付金を利用して農家の地域活動を制度面からサポートするのはもちろん、担い手を育成したり、農業体験や商品販売を通して農業への関心を高めたりとさまざまな方向から仕掛けていくことが求められます。農家にとっての困りごとや面倒なことにこそ積極的に取り組み、頼りがいのある存在になりたいです」と話します。
南野さんは「農事組合法人となん設立時に役員が話した『都南地域の農業のバトンを次世代につなげましょう』という言葉が印象的でした。高齢化などによって農業人口が減り、集落営農にとって厳しい状況ではありますが、私たちが次世代につなげなければとの思いで続けてきました。若い人材の採用に力を入れ、地域になじめるようにサポートすることで、就農者を一人でも多く定着させたいです」と力を込めます。